いまいちばんアツいスケート漫画、つるまいかだ先生の『メダリスト』。月刊アフタヌーンで連載中です。主人公いのりちゃんの成長ももちろんですが、初級バッジテストや地方ブロック大会もきっちり描かれる細かなスケート舞台裏が魅力です。
そんなメダリストを、今回はストーリーではなく、スケママ・コーチング・靴視点から考察してみるよ! ストーリーにはあまり絡まないけど、一片のネタバレも踏みたくないという未読の方はご注意。でも、これを読んでからでも十分楽しめます!
スケママ視点で見たメダリスト
「この子、オリンピックに出られますか」
って聞くママが多いってシーンが出てくるんですけどね。
聞きませんよ!! 恥ずかしい!!
でも緻密な取材のメダリストだから、中には本当にこう聞いてくる親御さんもいるのかな……(実体験よりメダリストを信頼している私)
逆に、周囲に「フィギュアスケートやってる」っていうと、必ずと言っていいほど「オリンピックに出たら応援しにいかなくちゃね!」って言われます。なぜだ! やめてほしい!
柔道とかバレーボールとかをやってる子に、もれなく「将来はオリンピック選手だね!」って言わないよね? 競技人口がまだまだ少ないので、「テレビに出てる一流選手しか見たことない」という人が多いんですよね。
つまりはフィギュアスケート の裾野の狭さが問題なわけですよ。もっともっと身近なものにしていかないと、と思います。大人スケーターの皆さん、一緒に頑張りましょう(涙)
「スケートをしてなかったら他のことができた」
いのりママのセリフ。たしかに、「スケートをしていなかったら何をしてたかなあ」と思うことはありますが、スケートを選んだ時点で「広く浅く」よりも「狭く深く」を選択してしまったわけなので、まあ仕方がないことですね。
やめていく選択をする子もそれなりに見ているので、やめない選択をしたのもまた自分の選んだ道です。
ま、スケートをしていなかったらもっと時間とお金に余裕があったかな、とは思いますけどね! あはは!
「あの結束いのりって子、なんなの?」
1巻にいのりちゃんのことを悪く言うママ連中が出てきますが、ほかの子供をこきおろすスケママばかりではありません。というか、ほとんどいないと思いますよ。
……が、めちゃくちゃ少数派ではありますが、自分の子が大切なあまり、よその子を敵視しちゃうママはいましたね……こわいね……そしてそういう人って声が大きくてボス(あるいは女王様)でありたい人だから、周りは困りながら調子を合わせてるような感じ。
でも、これは他の習い事でもそうなのかも
で、ここで声を大にして言っておきたいのは、
「ほんとうに優秀な(真面目で練習熱心な)選手の親は、まず他の子の悪口を言わない」
ってことですね。ゆったりどっしりしてます。初心者にも下級の子にも分け隔てなくやさしい。先生に必要以上にべったりもしないし。任せます~って感じで見守ってる。さすがだなって思います。
そして親はともかく、子供同士はほんとうに仲が良いことが多いです。クラブとか、級に関係なく。
いのりママの苦労
あけすけに意地悪な人はいないにしても、いのりママはいのりちゃんがクラブに入った当初、相当苦労したと思うんですよ。
なんでかって、ふつう姉と妹で別クラブに入れるってことはないわけで。
バッジテストやら試合やらで、頻繁に実叶ちゃん(いのりちゃんのお姉ちゃん)が所属していたクラブのコーチや保護者と顔をあわせるわけですよ。
「あ、結束さん」
「どうもお久しぶりです、実は妹の方が別のクラブに入りまして」
「えーどうしてウチじゃないの?」
みたいなめんどくさいことがね、あったと思うんですよ。
母としては、違うクラブに進んだ妹を連れて同じ名古屋の大会に出るのは、そこそこ肩身の狭いことだと思うんですよね。
いのりママはそれを「応援する」と決めて、そのへんの挨拶とかやってるんだろうなと思うと涙が出ます。
しかも実叶ちゃん、アイスショー出るほどの選手だったのなら(6巻、いるかちゃんにも知られてるし)、いのりママはスケートママたちの中ではそれなりに顔を知られてたんじゃないかなあ。その人が妹を別クラブに……スケママたちの間で、さまざまな憶測があったに違いないと考えてしまいます。
そういうしがらみとかなんとかを全部引き受けても、いのりちゃんを応援すると決めたいのりママ、なかなか強くて頼もしい、そして優しいママだと思います。遠回りしちゃったけどね。
コーチング視点で見たメダリスト
司先生のコーチング能力が素晴らしすぎて、全教育関係者と全経営者及び管理職に読ませたいコーチング指南書だと思いますね。ヤコは仕事柄、ちょっとコーチングについてかじってまして、そういう視点から見ても司先生は素晴らしいと思います。
- まず最初に褒めること
- 「あなたはどう思う?」と聞くこと
- 背伸びすれば届くストレッチゴールの設定
- 自分で決めさせること
- 信じること
- いっしょに喜ぶこと
生徒を「さん付け」で呼ぶ
まず司先生と鴗鳥先生は、生徒のことを「さん付け」で呼びます。
とくに司先生はいのりちゃん と出会った当初は「君」と呼んでいたのに、「あなた」と呼ぶようになっています。
パワハラ防止の対策として、部下を「さん付け」する会社が増えているようです。「くん付け」とか「呼び捨て」をしているなら、それを「さん付け」に変えるのが手っ取り早いハラスメント防止対策なのです。
それを考えると、いのりちゃんに対する司先生の姿勢は、上司としてもコーチとしても最高じゃないですか。
「勝ちたてアツアツ喜びGOE+5」
そして、司先生はとにかく褒める。ただ褒めるだけでなく、
「その時を逃さずに」褒める。
そして「具体的に」褒める。
これって理想のリーダーの条件です。
いのりちゃんの優勝を「まだちゃんと喜んでない」と言って、一緒に喜ぼうとしてくれるシーン。そしてめちゃくちゃ具体的に褒められた理凰くんが、戸惑いつつもその後だんだん心を開いていくところ。司先生の抜群の褒めスキルによって、見事なまでに心理的安全性を構築しています。
この心理的安全性とは、「『自分が意見を言ったり挑戦したりしても人格を否定されない』と確信できる環境づくりが、効率性や生産性を上げ、結果を出すことにつながる」というもの。
ちなみに心理的安全性についてはこのあたりの本がわかりやすいので全管理職および家庭内でついつい叱りすぎちゃう親御さんにもオススメ。
靴どうなってんのか気になるメダリスト
夜鷹純くんはEDEA(アイスフライ→ピアノ?)
夜鷹純くんの靴はEDEA(3巻P179ではしっかりアイスフライだとわかります)(6巻だとピアノという情報もあるようですが、はっきりとは確認できませんでした)
ブレードはJohn Wilson パターン99レボリューションの黒いやつですね。
狼嵜光ちゃんはEDEAピアノ
2巻表紙、光ちゃんの靴はEDEAのピアノ(超上級者向け)です。(5巻P19-20でもしっかり描かれてます)
ブレードはひょっとするとJohn Wilsonではなく、MK(ミッチェル&キング)のファントムレボリューションかもしれない。
この年でこんなに硬い靴履くのか……と思ったりもしますが、どうなんでしょうね。
アイスフライならよく見ます。ピアノはアイスフライが折れてしまう選手向けなのですが、確かに光ちゃんのジャンプに耐え得る靴となると、これくらいの硬さが必要なのかも。
それにしても強靭な足首だ……!
結束いのりちゃんはJacksonアーティスト
3巻表紙、いのりちゃんの靴はJacksonのArtiste(初心者向けのセット靴)
ヒールに入っているラインが特徴的なので「お?見たことあるな」と思いました。
1巻の登場人物紹介ページにも「大須のリンクのスケートショップで買った28,000円のセット靴」とあるので、アーティストプラスセットですね。日本向け初心者セットです。ブレードはULTIMA社のミラージュがついています。
初心者向けとはいえ、リンクのお教室からクラブへ移るレベルなら、最初に履く靴としておすすめなのでは。
しかしいのりちゃん、このアーティストをいつまで履いてるのかがちょっと不明です。唐突に1年経って5級になっていたわけですが、1年も経てばサイズアウトしそうだし、この頻度で練習してたらアーティストなら折れる……
6級になったいのりちゃんの靴が何なのかが不明なので、どなたかご存知でしたらご一報ください。
明浦路司先生はRiedellのダンス靴
司先生については、1巻の紹介ページに「ライデルのダンス靴にMKのブレード」と書いてあります。
1巻の時点ではファントムっぽいんだけど、6巻の表紙だと違うブレード。John Wilsonのパターン99パラボリックっぽいけどどうなんだろう?
ところで6巻P110にはダンス靴のシルエットとシングルの靴のシルエットを描き分けてあるので興味深いです。(ここでシングルの靴として描かれているのは鴗鳥先生から借りた靴だと思うのですが、どうやらEDEAっぽいシルエット。)
とにかく、描き分けがすごい!
と思いつつ、いろんな選手たちの靴を見ていると、ライデルとジャクソンが多いのかな?という印象。
EDEAの選手向けの靴はフックが3段なんだけど、メダリストの選手の子たちの靴はまっすぐ4段が多いんですよね。マークやかかとの形状からも、ライデルかジャクソンかなーと思います。ひょっとしてコスギもいるのかしら? リスポートの靴もフックや模様が特徴的で、ちょっと違うかなって思ってます。
でも描くのほんとうに大変ですよね、感服…!
その他細かすぎて伝わらないメダリストの凄さ
フリーレッグの股関節の開き
- チェック時のフリーレッグ
- シットスピン時のフリーレッグ
- スパイラルのフリーレッグ
など、爪先が外を向いていて、「股関節を開いて脚を上げる」というバレエの基礎が徹底されていることに地味に感動しています。
バッジテスト各級のポイントがわかる
6級「2Aの壁」が描かれてるのが良かったですね!
スケートをテレビでしか見ない人は、「トリプルアクセルが難しそうなのはわかる。でもダブルアクセルってみんな跳べるんでしょ」って考えているんだよね。
いやいや、女子にとっては2Aの壁がとてつもなく高い。「2回転半じゃなくて3回転弱」ってのはその通りだと思います。
あと、大人スケーターにとっては初級バッジテストのコツが全部書かれていたので、これに従って練習すればヨシだと思います!
- ハーフサークルを大小つけずに同じ大きさできっちりと。
- ラインまで戻ること。
- クロスは上半身ブレないように。
- 重心が前に行かないように。
一つだけ難癖をつけるなら、
1級でもうツイズル? うそでしょ!?
って思ったことぐらいですかね…
ツイズルは4級の壁なので、1級のいのりちゃんがスルスルとツイズルをこなす姿にうっそぉ…ってなりました。でもサラッとこなす子も稀にいるらしいので、いのりちゃんはそのタイプだったのでしょう。
まとめ
以上、「メダリスト」をスケママ・コーチング・靴視点から考察してみました。いかがでしたか?
改めて考えてみて、本人・家族・コーチそれぞれの頑張りをうまく結びつけることが大切なんだなあと思いました。
細かなことがわかれば、もっともっと楽しくなるメダリスト。読んでも読んでも味わい深いです。
ところで、コミックスを所有している方は、ぜひカバー下もご覧くださいね!